― 2019年度政府予算について学ぶ ―
自治労中央本部が主催する「地方財政セミナー」が東京都砂防会館において開催され、5つの講演を受講しました。
講演①「自治体によるコモン・ニーズ戦略と財政の自治」
講師:高端正幸(埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授)
自治労総合政治政策局が2017年に作成した『人口減少時代の自治体財政構想プロジェクト報告書』の概要について説明がありました。コモン・ニーズとは、「誰もが直面しうる生活上の困難(障害、疾病、失業など)」 と「社会・地域を持続可能にする基礎的な条件(子育て、教育、 地域交通など)」であり、人びとにとっての「共通のニーズ」のことを指しています。
「労働による自立」と「家族による自助」を強く求める自己責任の日本社会モデルから脱却し、社会全体で支え合うことで、誰もが安心して生きていくことのできる「頼り合える社会」を目指すべきであると説明がありました。そして、自治体は対人社会サービスの担い手であると同時に「頼り合える地域社会」を創出するための協働者であることから、自治体が連帯して住民と向き合い、優先的コモン・ニーズを見出し、独自課税(新税あるいは税率決定権の行使)で財源を創っていくことで、「財政の自治」の本筋を追求すべきであると指摘されました。
誰もが抱えるコモン・ニーズを自治体が自ら発掘し、自ら汗をかいてそのための財源を獲得するという連帯税の仕組みは、地方自治の確実な前進となり得るとは思いますが、国民の抜本的な意識転換を図る必要があります。理想的な考えではあるものの、実現には相当な時間がかかると感じました。

高端正幸氏による講演
講演②「水道事業の広域化を考える」
講師:宇野二朗(横浜市立大学国際総合科学部教授)
臨時国会において可決・成立した水道法の改正については、水道施設に関する公共施設など運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入することが大きく問題として取り上げられましたが、一方で経営基盤強化のための広域化促進が一つのテーマであり、広域連携は無視できない時代に入っていると説明がありました。
例として、東京23区における東京都水道局が1970年代から多摩地区の市町村水道事業を統合した実例があげられました。当初、多摩地区との料金格差などの問題があったものの、「公平性」の理念を駆動力として改革を実現し、積極的に多摩地区にも投資し、その水準を継続に高めることによって、広域水道事業体が実現したとのことです。
そして、水道事業の広域化は、水質、安定供給などの機能的合理性、節約、コスト最少化、低料金、経済成長など経済的合理性、団体自治・住民自治はもとより公正さ、経済の地域内循環など地方自治的合理性の3つの視点をもって考えなければならないと指摘されました。
出雲市においても出雲市水道局と斐川・宍道水道事業団の2つが存在し、一部が2市にまたがっている状況を踏まえれば、将来的な広域化に向けて考えていかなければならない課題であると感じました。

宇野二朗氏による講演
講演③「ますます強まる『自治より財源』~不条理な地方税の『共有化・水平調整』と租税理論に反する増税~」
講師:青木宗明(神奈川大学経営学部教授)
不条理な地方税の「共有化・水平調整」について、説明を受けました。代表的な事例として、税源の偏在是正の観点から2019年度から創設される特別法人事業税があげられました。これは、地方税を用いた自治体間格差の是正であり、自分の金ではなく、人のカネを勝手に用いた財政調整であると説明されました。また、広い意味合いで言えばふるさと納税も同様で、地方分権改革による国から地方への税源移譲こそが問題解決の本筋であるにもかかわらず、自治体同士が寄付という名の税金を奪い合う構図に陥っていることが問題であると指摘されました。
また、2019年度から森林環境譲与税として地方自治体に分配される国税の森林環境税はさらに問題が大きいとされました。本来、エリアとメンバーに限定される地方自治体だけに認められる応益性を国税に適用し、流用・悪用するとともに増税の目的、根拠が不明であること、森林の存在しない横浜市が最大の譲与を受けるという矛盾だらけの税制であると指摘されました。そして、実際には平成36年度から課税にされるにもかかわらず、譲与税は平成31年度から交付され、増税前に既成事実化しようとしていることは、明らかに国民の目から増税を隠す目論見としか思えないとされました。
森林環境税については、地方、特に森林の多い地域に重点的に財源が入ってくると考えていたことから、講演を聴き、認識を改めさせられました。

青木宗明氏による講演
講演④「2019年度政府予算と地方財政計画」
講師:其田茂樹(地方自治総合研究所研究員)
2019年度予算には、消費税増税に伴う臨時・特例の措置が講じられていることに注目すべきであると説明がありました。臨時・特例の措置とは、①全世代型の社会保障制度への転換に向け、消費税増税分を活用した幼児教育の無償化、社会保障の充実②消費税引き上げによる経済への影響の平準化に向け、施策を総動員③重要インフラの緊急点検等を踏まえ、2020年までの3年間で集中的に実施の3つです。これに係る予算2兆280億円は、消費税収の1兆5,960億円を上回る措置となっていることは問題であると指摘されました。
地方財政対策時における地方財政計画の規模については、89兆2,500億円程度、一般財源総額については、前年度を0.6兆円上回る62兆7,072億円となっています。比較的安定した税収と消費税増税に伴う対策など補助事業を中心に財政措置が講じられた結果、地方税の増収と交付税の増加を両立させた地方から見ればよい形の地方財政対策及び計画となっていると説明されました。一方で、公共サービスをどのように提供するかについては、それぞれの自治体の事情で判断すべきであり、国の誘導に一喜一憂しないことが必要であると指摘されました。財源不足が生じた際、議会を通じて負担を分かち合うという姿勢もこれからの自治体には必要となってくると思います。

其田茂樹氏による講演
講演⑤「地方交付税の現状と課題~2018年度普通交付税算定結果を中心に~」
講師:飛田博史(地方自治研究所研究員)
国の施策が地方財政計画を通じて地方交付税の算定にどのように反映されたのか、その結果、交付税の配分にどのような影響があったのか、また交付税改革(トップランナー方式)は算定結果にどのような影響を与えたのかなどについて、説明がありました。
2018年度の地財計画は86.9兆円、前年度に対して0.3%増であり、特徴としては、歳出特別枠(地域経済基盤強化・雇用等対策費)の廃止、地方創生枠(まち・ひと・しごと創生事業費)の前年度同額計上、公共施設等適正管理推進事業費の対象拡充及びこれに伴う維持補修費の増額などがあげられます。歳出特別枠の廃止については、小規模自治体への影響が比較的大きいものの、地方創生枠の算定方法の見直しにより、地方圏は段階補正及び条件不利地域の割り増し補正によって是正されているのが現状であると悦明がありました。またトップランナー方式は、通年で見るとマイナス要因となるものの影響は限定的なものとなっているようです。しかしながら、基礎にあるのは合併後の市町村の姿を踏まえた交付税算定の見直しによりもたらされたものであり、自治体の広域化が行政効率を著しく向上させるものではないことを交付税算定が裏づけているにもかかわらず、相変わらずの連携・広域化指向は過去の反省がないと指摘されました。
2019年度には、消費増税に伴う社会保障の充実や防災・減災、国土強靭化関連の予算が計上され、有利な起債、交付税措置等の措置があるものの、実際に地方負担が生じるのは後年度になることから、地方債残高が増加する可能性が強く、交付税措置を当てにした事業実施により、債務悪化とならないよう留意する必要があると思います。

飛田博史氏による講演