― 教育委員会所管の課題について3自治体を視察 ―
●埼玉県草加市(子ども教育連携推進事業について)
草加市では、平成28年度から0歳から15歳までの「幼保小中を一貫した教育」を中学校区単位で実践しています。学校・家庭・地域がともに子どもたちの育ちを支える「子ども教育」の連携を推進し、子どもたち一人ひとりに「生きる力」を育む連続した教育期間ととらえることにより、自己肯定感や自己有用感を育て、子どもたちの「意欲」と「自信」を育てることを目的としています。
具体的には、幼保小連携では交流給食、小中連携では部活動体験や中学校教員の専門性を活かした小学校への乗り入れ授業、家庭・地域との連携では幼保小中地域対抗リレーなど特色のある取組みが行われています。また、幼保小接続期や幼保小中一貫教育標準カリキュラムなど、市独自の教職員向け指導資料を作成することにより、他市から異動してきた教職員にも対応できるようにしています。
出雲市では、幼保小の連携や家庭・地域との連携事業は多く実践されていますが、草加市と比べれば小中学校の連携は少なく、0歳から15歳までの一貫教育という考え方が浸透しているとは言えません。草加市の取組みを参考としながら、特に小中学校の連携について考えていく必要性を感じました。
●群馬県伊勢崎市(小学校の教科分担制について)
伊勢崎市では、平成22年から授業科目ごとに教員が変わる独自の制度を市内の全23小学校で導入しています。公立小学校で行われている1人の教員がすべての科目を教える「学級担任制」と公立中学校で行われている教科ごとに専門の教員が教える「教科担任制」を組み合わせたもので、学年や学校の規模によって教科に違いはあるものの、体育、音楽、理科などのほか、社会、国語、算数、英語、道徳などにも教科担任制が取り入れられている学校もあります。小学校の教員にとっては、指導の役割分担が明確となり、小中9年間の責任一貫指導が可能となることや職務内容の効率化による負担軽減が図られるというメリットがあり、子どもたちからも評価されているようです。一方、学級を受け持つ場面が減少し、子どもとのコミュニケーションが不足する、指導したことのない教科がある状態で、次の学校に転任となることがあるといったデメリットもあると聞きました。
中央審議会においても、教職員の多忙化解消に向けた教科担任制の導入や先進技術の活用などが示されています。メリットとデメリットの両面はありますが、教科分担制の導入も視野に入れた検討は必要だと感じました。
(小学校からの英語教育の取り組みについて)
伊勢崎市では、平成25年度から「伊勢崎式小中一貫英語力向上プログラム」に沿って、小1から小6まで週1コマの英語科の授業を実施し、ふるさとの誇りと豊かな英語力を持った児童・生徒の育成を目標に掲げています。英語本科授業のほか、モジュールプログラム(短時間学習)を取り入れ、アルファベットの文字と音の関係を学ぶフォニックス学習など、特徴的な英語教育が行われています。また、ふるさと学習にもALTと連携したテキスト作成により、ふるさと伊勢崎を英語で語ることを目指しています。
これらの取組みの結果、中学3年生での英検3級取得が全国平均より7ポイント近く高く、英語学習が好きと答える児童・生徒の割合も高くなっています。文部科学省では、学習指導要領が見直され、来年度から小学校・中学校での英語教育が大きく変わることになっています。小学3年生から英語教育がスタートし、小学5・6年生は教科となり、成績がつくようになります。出雲市の英語教育は、かつては全国的に先進的な取組みが行われてきました。来年度から始まる教育改革に向け、伊勢崎市の取組みも参考しながら、明確な目標を設定し、スムースに移行していくことが必要です。
●東京都杉並区(部活動活性化事業について)
杉並区は、教職員の部活動負担軽減に向けた取組みとして、外部指導員事業と部活動活性化事業の2つの事業を実施しています。
外部指導員事業は、平成13年度から実施され、1日2,200円の交通費費用弁償で部活動を支援する地域のボランティアを採用しています。資格は問わず、顧問教員との二人三脚で各部の練習などを支援し、平成28年度実績で1校当たり年間延べ360人を活用しています。
部活動活性化事業は、平成28年度から本格的に始まり、学校ニーズに合わせて、事業者やNPOなどに委託し、週1回程度、専門コーチによる部活動指導を実施しています。その際、顧問教員の立合いを不要としていることから、特に協議経験、指導経験がない顧問にとってはその時間を授業準備などに活用することが可能で、生徒・顧問双方から高評価を得ているようです。
島根県でも部活動指導員の募集が始まっていますが、現在、活用に至っているのはわずかであると聞いています。都会と比べ、指導者となり得るべき団体や人材が圧倒的に少なく、杉並区の部活動活性化事業のような事業は難しいと思われますが、教職員OBの方などを広く活用し、教職員の負担軽減を図っていくことが必要だと感じました。