― 生き物と共存し、エサ場を確保することの重要性を学ぶ ―
NPO法人いずも朱鷺21が主催する「トキを生かす・活かす農業のおはなし」と題した講演会・意見交換会が朱鷺会館において開催され、参加しました。
最初に、公益財団法人日本生態系協会専務理事の関健志氏から「全国の先進事例を踏まえたトキと共生する農業の意義について」と題し、講演がありました。関氏からは、千葉県野田市や印西市、群馬県小山市などでの環境保全型農業の実践例が紹介されました。野田市では、将来的に関東地方でもトキの舞う姿が見られることをめざしています。また、小山市では完全無農薬のお米を市内全13校の小学校に提供しているそうです。そのほか、北海道の長沼では、大規模なエサ場をつくることによって140年ぶりにタンチョウが戻ってきた事例の紹介がありました。環境保全型農業の実践により、ブランド化を図るとともに、生き物が棲みよい環境をつくり出すことが、トキが住める環境にもなることを改めて実感しました。
続いて、NPO法人とくしまコウノトリ基金理事の柴折史昭氏より「徳島県におけるコウノトリの野生復帰に向けた取組み」と題して講演がありました。2015年に鳴門市でコウノトリが巣作りを始めて以来、コウノトリ定着推進連絡協議会を発足されています。特に、エサ場を確保するため、冬場のレンコン畑の活用や耕作放棄地をビオトープに替えるなどの取り組みを実践されています。また、レンコンをはじめとしたコウノトリ関連の商品開発やエコツアーの企画など、ブランド化や啓発活動にも積極的です。コウノトリが棲み続けられるまちづくりの思いが強く感じられました。
最後に、佐渡トキの田んぼを守る会会長の齋藤真一郎氏から、リモート参加とはなりましたが「佐渡におけるトキと共生する農業の実践事例の紹介」と題した講演がありました。
佐渡島に生息するトキは、現在、野生下で推定458羽とされ、野生絶滅から絶滅危惧ⅠA類となり、国内の動物で野生絶滅を脱した初の事例となっています。トキのエサ場を確保するため、冬にも田に水を張る「ふゆみずたんぼ」、江の設置など、先進的な取り組みが実践されてきました。また、夏場のエサ確保対策としての畔への除草剤禁止、自然栽培、有機栽培への認証米制度なども行政の補助を受けながら取り組まれています。そのほか、生き物調査など啓発活動やブランド商品の開発にも力を入れています。「トキも棲める環境は、多くの生き物が生きることができる豊かな環境であり、このことは人間にとっても、安心して住める環境である」と語られていたことは、強く印象に残りました。
全体として、トキが棲める環境にしていくために最も大切なのはエサ場であり、環境保全型農業の実践により、多くの生き物が生息できる環境をつくり出すことが、将来、出雲の地にトキが舞うことにつながるものと思います。